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「野火」-良質の珈琲の味わい

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久しぶりに、本の話題です。

昔から気になっていた本ですが、初めて読んでみました。切っ掛けは塚本晋也監督の映画「野火」を見たこと。いかにも低予算映画らしいところもありますが、鮮烈な表現に強い印象を受けました。

第二次世界大戦の南方戦線における死者の多くは餓死によるものだった。武器弾薬はおろか食糧の補給もほとんど無かったからである。

主人公がそうとは知らず死んだ日本兵の肉を食べるシーンがある。生きている日本兵を「猿」と呼んで殺して喰うという兵隊も出てくる。戦後のシベリア抑留でも同様のことがあった。抑留された文化人類学者の加藤九祚氏によると、抑留から脱走しようとした二人の日本兵が、食べ物に困ったら喰ってしまおうと、同僚の中で一番気の弱い人を強引に仲間に入れて連れていき、実際に喰ってしまったという。極限まで追い込まれると人間が何をするのか、怖いものがある。

気になるのは「危険が到来せずその予感だけしかない場合、内攻する自己保存の本能は、人間を必要以上にエゴイストにする」というような表現。感心する人が沢山いるらしく、kindleでは多くの人がその部分にハイライトを付けている。でも、私の感性からすると、こういう抽象的な人間考察をストーリーテリングの中に挿入するのは邪魔。抽象的な思考をそれとして表現したかったら、哲学でやって欲しい。文学作品に自分の思想を表現したいと思ったら、それはストーリーとして展開すればいい。語るのは良いが説いてしまったら面白くなくなる。お説教になってしまう。不遜にも私は昔からそう思っている。

「私の生命の維持が、私の属し、そのため私が生命を提供している国家から保証される限度は、この六本の芋に尽きていた」という文も気になる。何度も読み直し、やっとその意味を理解しました。まるで数式のよう。

この様に、硬くてこなれない文章が縦横に展開され、しかも表現されている世界は人間の極限そのもの。しかし、矛盾するようだが、それでもなおかつ、この作品からは文章を読む快楽が感じられる。芳醇なコーヒーの味わいがする。

by haru_ogawa2 | 2017-10-25 00:11 | その他 | Comments(0)

元々は自宅の回りの植物(枯れ草・枯れ葉・花・紅葉等)を撮っていましたが、今はよさこいのイベントを撮ることが多くなりました。GANREFにも投稿しています(https://ganref.jp/m/haru_ogawa/portfolios/photo_list/page:1/sort:ganref_point/direction:desc)。


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