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「万引き家族」

毎日夜の数時間を費やしているGANREFが21日から2週間のお休み(ログイン不能、閲覧は可能)に入ったため、久しぶりに映画を観ました。もちろん、AMAZON PRIMEで。

「万引き家族」
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拾い拾われた「家族」の愛しく厳しく切ない物語。深い。

良かった。深い。

単純な結論が出ないことを、一応の物語にするというのは非常に困難な作業であると思う。

進行と共に徐々に分かってくることだが、三世代家族と思われた家族は、実は虚構でしかなかった。「金でつながっている」という言葉も出てくるが、そういう言葉では語りつくせない心のつながりが表現されている。

片や肉親でありながら虐待に苦しむ人がいるのに、赤の他人でありながら互いを慈しみあう関係がありうるとしたら、家族とは何だろうかという思いが沸いてくる。
そして、このような関係を築いている疑似家族は、極端な貧困の中にある。中年の男女はそれぞれ働いているが、社会の底辺と呼ぶのが自然な不安定な低賃金労働。万引きも生活の一手段として取り入れることに疑いを持たない。「ばあさん」が自然死した時には、医者に見せることも葬式を上げることも、出来るはずのないことであった。
そして、終盤、警察に捕まった中年男が、なぜ子どもに万引きをさせたのかと聞かれて、それ以外に教えることのできるものがないと答える。英語よりも国語の方が不得意と言うくらいなのだから、その通りなのだろう。

小さな女の子をなぜ誘拐したのかと尋問されて、いや誘拐じゃないんだと答えるが、ああいうのを誘拐というのだと念押しされて、そうだなと納得する。確かに論理的には誘拐としか言えないが、情としては誘拐ではなかった。虐待を受けているその子を家庭に戻すことが忍びなかった。本人も家庭に戻ることを希望はしていなかった。可愛いという気持ちが出てきて、返せなくなってしまう。

中年の男女も、老女も、若い女性も、万引きや車上荒らしをすることを除けば、非常に優しい人たち。非現実的なくらいに良い人揃い。それが、この映画に深みを与えている。リリーフランキーも、安藤サクラも、樹木希林も、さすがの好演であった。

中年男は、店にあるものは、まだ誰のものでもないと言う。だから、自分たちはただそれを拾っているだけなのだと。同居者についても、「拾った」という。老女は遺棄したのではなくむしろ拾ったのだと中年女は警察で言っている。少年も、パチンコ屋の駐車場に駐めた赤いヴィッツから拾われた。小さい女の子も、誘拐ではなく拾ったものだ。この映画の題名は、だから店の商品の窃盗にだけ限定して付けられたものではない。家族構成そのものが「万引き」によって構成されたものということになる。

この映画では現実の日本社会の問題が問題として提起されていて答えは用意されていない。それは、それで良いと思う。答えるのは、観客だ。ただ、映画に限らずすべての芸術は、何かを言うためにだけ作られるものではない。そういう映画もあるかもしれないが、あるとしたら、それはつまらない創作だ。芸術は言葉で言い切れないものを表現するためにこそある。そのようなふくらみを十分に感じることのできる映画であった。

by haru_ogawa2 | 2019-08-22 01:22 | その他 | Comments(0)

元々は自宅の回りの植物(枯れ草・枯れ葉・花・紅葉等)を撮っていましたが、今はよさこいのイベントを撮ることが多くなりました。GANREFにも投稿しています(https://ganref.jp/m/haru_ogawa/portfolios/photo_list/page:1/sort:ganref_point/direction:desc)。


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