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「学校」

「学校」
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社会から落ちこぼされ学ぶ機会の無かった人たちが改めて学ぶことを求め、その気持ちに誠実に応える教師。素晴らしい作品だが、その主張の明確さが、逆に私には少し残念。

27年前の映画。夜間中学の先生と生徒の話。

普通の中学校生活を送れなかった人が、勉強する機会を求めて入学する学校。年齢は様々で、中には50代・60代の人もいる。日本社会への適応に難しさのあった在日韓国人・朝鮮人や在日中国人の人も珍しくない。

今では爺さん・婆さん役をやる西田敏行、竹下景子が若い。知的美魔女となっている中江有里が清純な美少女として登場しているのも印象深い。
実を言うと、私は中江有里という人を10年ほど前まで知らなかった。NHKの読書番組「週刊ブックレビュー」でこの人が司会として出演しているのをたまたま目にして、ビックリした。"何なんだ、この人は? こんなきれいな人が作家?"と驚き、Googleで検索して、元々アイドル歌手兼女優であったことを初めて知った。今では、年間300冊を読む超読書家でもあるらしい。川上未映子に並ぶ才色兼備の女性。

「学校Ⅱ」は、20年ちょっと前にたまたま見る機会があり、感動した。でも、シリーズ第一作のこの作品はずっと敬遠して来た。私は、いわゆる"真面目"な映画については観ておくべきだとは思いながらも、同時に、出来たら遠慮しておきたいという気持ちも沸いてしまう。初めから内容がある程度類推できるような気がしてしまうのだ。きっと道徳臭くてステレオタイプな価値観が展開されるんだよなという予想が働いてしまう。その結果、観れば素晴らしいものだろうとは思いながらも、実際に手を出すにはハードルが高くなってしまう。

今回は、そのハードルを越えてみた。amazonでの松竹映画の無料お試し期間(なんと60日もある)の期限が数日後に迫ったからだ。
内容は当然悪くはない。さすがにこの監督らしく展開もこなれている。具体的に無理なく観客の心をもみほぐして、涙を流させてくれる。

例えば、以下のようなエピソードがある。
まともに小学校にも通うことが出来ないまま、職業を転々として、50代にして入学してきた生徒がいる。競馬にはめっぽう詳しいが、他には自信のあるものがない。カタカナも満足に書けない。そんな生徒が、誰かに葉書を出すことという宿題で、子持ちの若い女性教諭を選んで書く。一週間かけてやっと書き上げて投函するのだが、そこには"結婚してください"と書いてあった。受け取った女性教諭はビックリして同僚の中年男性教諭(主人公)に相談する。男性教諭は本人を焼き肉屋に呼んで、それは無理だ、友情と愛情は違うと諭す。初めは、自分が初めて書いた葉書を郵便局の人が理解して配ってくれたんだと感激していた50代の男は、その後怒り狂う。酒乱なのだ。お前ら教員はつるんで俺を馬鹿にしてるんだろう。お前らと俺とは血統が違う。どうせ俺は馬鹿な血統だからなと怒鳴り、掴みかかる。それを、やはり生徒でこの焼き肉屋の経営者のオバさんが力づくで止め、息子に外に運び出させる。翌日、男性教諭が50代の男の部屋を訪ねると、男はすっかり忘れている。でも、男の健康に異常があることに気が付いた男性教諭は、すぐに病院に行くことを勧め、その場で入院となる。結局、男は病院から出られることなく亡くなる。
その男が、息子や娘のような年齢の同級生と一緒に修学旅行に出かける回想シーンも見事。蝶ネクタイを締めてめかし込んだ男が、これ以上ないほど幸せそうな表情ではしゃいでいる。
やはり、こういう展開、上手いなぁと思う。気持ちが動かされる。

家庭的・経済的・社会的に不遇な立場にある人たちが如何に必死に生きているかを認識するべきだ、社会的にどんな立場に置かれた人も人格の価値は平等だ、人間の幸福は金では決まらない、生きていて良かったと思えることこそが大切だ等々のこの映画で展開される主張に異論はない。その通りだと思う。ただ、自分の目から鱗が落ちる気がしないのだ。素晴らしい展開を見せてくれるが、やはり既視感を超えることが出来ない。

世の中には、逆の価値観が蔓延しているのかもしれない。それは、本音として相当強力に多くの人の心にビルトインされているのかもしれない。それに対するアンチテーゼとして、この映画で展開される価値観には意味があるのだろうと思う。どちらの価値観を支持するかと聞かれたら、私は間違いなくこの映画の価値観を支持する。ただ、それは、自分にとっては当たり前以上のものではない。

この映画に星を付けるとしたら、5点満点で4.5~5だろうなと思う。良くできている映画だと思う。でも、基本的に、私は、何を訴えているのかが言葉で明確に説明できてしまう作品に心の底から惹かれることはないのだろうと思う。

なおこの作品は、日本アカデミー賞で最優秀作品賞以下6部門を制覇している。それだけの評価が与えられたことは順当だと思う。また、特別出演の渥美清には感心した。ほんの少し顔を見せるだけで、自分の空気を作ってしまう。実は、NHKの連続ドラマで「男はつらいよ」の舞台を大阪に移し替えたシリーズがあったが、ちっとも面白くなかった。やはり渥美清という俳優は偉大であったと思う。

by haru_ogawa2 | 2020-06-02 12:30 | その他 | Comments(0)

元々は自宅の回りの植物(枯れ草・枯れ葉・花・紅葉等)を撮っていましたが、今はよさこいのイベントを撮ることが多くなりました。GANREFにも投稿しています(https://ganref.jp/m/haru_ogawa/portfolios/photo_list/page:1/sort:ganref_point/direction:desc)。


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